佐久間の今週の一冊
2013年04月22日 日記
今週の一冊は星野智幸さんの「俺俺」です。
ひょんなことからオレオレ詐欺を働いてしまった「俺」長野均は、気付いたら騙した母親の息子になってしまった。
一方本来の母親のもとへ訪ねてみると、別の「俺」がすでに家に住んでいた。
「俺」が複数人いることで、他人と分かり合えていなかった「俺」が喜びを得る前半、「俺」があまりにも増え続け、自身のアイデンティティが揺らぎ始める中盤、そして怒涛の展開が待ち受ける終盤にかけて、特異な設定ながらまったく飽きさせることなく物語。
「俺」は、これまでの「俺」ではなく、となりにいた気にくわないあいつが「俺」になってしまい、 いままでの「俺」ではなく、あいつが「俺」になってしまう。
そこからだんだんと「俺」の自意識が拡散していき、 カメラの安売り屋に勤めている「俺」の気に入らない上司までもが「俺」であり、 みんなほとんどが、「俺」になっていく。「俺」が三人で高尾山に登ったり、違う「俺」が女の「俺」と付き合っていたり。「俺」と「俺」は共感する部分が多く、居心地が良かった為、毎日のように三人は一緒にいた。やがて、「俺」が拡大していき、 そんな「俺」は「俺」を殺すことが多発していき、最後にはみんな「俺」同士が殺し合う、という結末に。居心地が良かったはずの「俺」なのに。
現代は自己中心とか、自己愛が強い人が多い。 実はそれは、他人を「俺」に従わせたい、征服感。すなわち他人を「俺」にしたい、というワガママでもある。それが拡大していく現代社会を描いた作品となっています。
個性を大事にしていたはずなのに染まることが生きることになっていく。周りの目を気にせず個性を見つけられる人になれたら。自分自身を理解する為にたどり着く場所にたどりつくのかもしれない。